徘徊 ー周辺症状①ー

症状の話

こんにちは。くんぱす先生です。

【介護が難しくなる症状-周辺症状とは―】でお話した症状を一つずつ詳しくお話していきたいとおもいます。

まだこちらの記事を読まれていない方は、先に読んでいただくとより分かりやすいと思います。↓

今回は【徘徊】についてです。

在宅介護で【徘徊】に困っている方は多い

認知症高齢者の徘徊は危険の認識が低下していることもあって、事故や事件に巻き込まれないかと心配がつきません。夏や冬など気候が厳しい日には体調の急変も気がかりです。

厚生労働省の発表によると、徘徊高齢者の捜索願や110番通報は一年間で2万件以上にのぼるそうです。単純計算しても一日に約55件にも及ぶことになります。

なぜ【徘徊】するのか

【徘徊】とは、目的もなくうろうろと彷徨う行動を指します。

”目的もなく”というのは当事者目線ではない解釈かな、と思います。ご本人にとっては目的がある場合も少なくないからです。

きっかけはご本人によるとは思いますが、例えばこんなことが考えられます。

  • 不安・焦燥感が高まっており、じっとしていられない。
  • すでに抗認知症薬や抗精神病薬の内服をされている場合、その副作用によりソワソワしてしまう。(アカシジアなど)
  • 自宅を”自分の家”と認識できず、自分の求める”家”に帰ろうとする。
  • すでに退職されているが、長年勤めてきた仕事へ向かおうとする。

他にも10人いれば10通りの理由がそれぞれにおありかと察しますが、よく見られるものを挙げてみました。

基本的に不安・焦燥感が高まっておられることが多いです。

そして一旦家を離れてしまうと、認知機能低下のうち、【視空間認知機能の低下】【見当識障害】などから自宅に自力で帰ることが難しいのです。そしてご本人もどうしていいか分からず、歩き続け、さらに不安・焦燥感が高まり、、という悪循環に陥ります。

視空間認知機能の低下

【視空間認知機能の低下】とは、視力が正常でも顔や物体を認識したり、空間を把握したりする能力が低下している状態です。

例えば、このような状況を引き起こします。

  • 道の構造が分かりにくくなり迷子になる。
  • 道路に影があるだけなのに、深い谷のように錯覚し踏み出すことができなくなる。
  • 障害物との距離感が掴めずにぶつかったり足を引っかけてしまう。

見当識障害

時間や場所、人など、自分が置かれている状況を把握する能力が欠如している状態です。

”時間”の見当識障害

  • 今日が何月何日か分からなくなる。
  • 季節を肌感覚で感じることが難しくなる。(寒いから冬かな、など)
  • 曜日の感覚が低下する。
  • 今が昼なのか夜なのか分からなくなる。(たとえ時計を読むことができても昼の11時なのか、夜の11時(23時)なのかわからない、など)

”場所”の見当識障害

  • 毎日のように通っていたスーパーや職場の場所が分からなくなる。
  • 自宅に帰る道順が分からず迷子になる。
  • 今いるところがどんな場所か想像できなくなる。(白衣を着た医師や看護師がいるから”病院”だ、など)

”人”の見当識障害

  • 配偶者を自分の両親だと勘違いする。
  • 特徴的な服装や身なりから職業を判断することができなくなる。(白衣→医師、制服→警察官など)

そしてこれらの視空間認知機能の低下や見当識障害が生じることで、ご本人の不安・焦燥感を高めることにつながるのです。

私たちケアにあたる者は、これらのご本人が感じているであろう不安感を想像して寄り添う態度を示すことが大切な第一歩になります。

対処法

↑こちらの記事でお話したように、前提として徘徊が頻回で目が離せない病状の場合は、在宅生活を続けることが最適解か今一度専門職と相談していただくのが望ましいと思います。

けれど、その間にできることとして何かないかとお悩みの方もいらっしゃると思うので以下に書いていきますね。

非薬物療法

① 日中、気がまぎれる活動を取り入れる。

自宅に1日中いると生活にメリハリがでなかったり、単調な日々になりやすいため、通所サービスを始めてみたり、地域のコミュニティーの場に誘ってみたりとご本人の趣味嗜好にあった活動がないか探してみるといいと思います。

② 毎朝、その日の服装を全身写真で撮っておく。

万が一、迷子になってしまったときのことを想定してご本人の特徴が一目で分かるように写真に収めておくといいと思います。

今はほとんどの方が携帯電話をお持ちで手軽に写真を残せるので、是非お試しください。

③ 名前や連絡先を書いたものを携帯させる。

迷子になっているときに出先で”様子が変だな”と気づいて下さった方の目につくであろうところに携帯していただくのがいいです。

プライバシーを隠しながらも、他人がいざという時に見つけてくれる場所というのはとても難しい課題ですが、試行錯誤してみて頂きたいと思います。

例えばこんなアイデアはいかがでしょうか。

  • 必ず決まった鞄を持って出かける習慣のある方はキーホルダータイプのものを鞄につける。
  • 杖やシルバーカーで出かける方はその歩行補助具に貼る、つける。
  • 決まった帽子を被っていく習慣があれば縫い付ける。
  • 目立つところには”迷子札が〇〇にあります”とだけ記載し、個人情報は外から見えない所へ入れておく。
  • ヘルプマークを利用する。(以下画像:東京都福祉局から引用)

その方の”いつもの習慣”を探してみてください。出かけるときにいつも携帯しているものがあればそれに忍ばせるのがいいと思います。

衣服の裏に記名や住所を貼る、というのも一手ですが、ご本人からしたら外出時に赤の他人に服の裏を探られるというのは怖い思いを多少なりともすると思うので警戒してしまうのではないか、と個人的には感じます。

ご本人の認知症の程度に合わせたオーダーメイドの対策を練ることが必要だと思います。

④ GPSを検討する。

GPSとは、Global Positioning Systemの略で人工衛星から発信される電波を受信して、現在位置を特定するシステムです。カーナビなどはこのシステムを利用した商品です。

これを携帯することで、「今どこにいるか」を知ることができます。

ポケットに入るようなものから、最近ではGPSを内臓できるインソール(靴の中敷き)なども売られています。そして、その購入費の一部を助成してくれる自治体もあるので併せて相談してみましょう。

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⑤ 玄関ドアが開くと音が鳴るようにする。(センサーやベルの取り付け)

後付けで設置することができるツールが多く売られています。

自治体によってはレンタルや購入費の一部を助成してくれるところもあるかもしれません。

地域包括支援センターや役所、ケアマネージャーさんがすでについていらっしゃる方はケアマネージャーに相談してみてください。

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⑥ 鍵をもう一つ追加する、新たなものに交換する。

ご本人の人権の問題もあり、軟禁と紙一重になる対策のため慎重に検討が必要です。しかし、ご本人の安全のためにやむを得ない場合は検討するのも一手かと思います。

ご本人が使い慣れた鍵ではない新たな鍵を追加、または交換し自力では外出できないようにするという対策になります。

鍵をいつものように開けられなくなるので、より不安・焦燥感が増強したり他の周辺症状の出現を助長してしまう可能性があるため他の対策を講じてから最終手段として捉えてください。そしてこれらの周辺症状が悪化する場合は、薬の調整が必要な病状と判断できるので医療機関を受診してくださいね。

薬物療法

睡眠はとれていますか?

まずは睡眠と覚醒のリズムが整っているかが重要です。

万が一、夜しっかりと睡眠をとれていない場合は生活のリズムの見直しや日中の活動度をお聞きした上で解決すべき問題が特に見当たらなければ、まずは睡眠薬の処方を検討することになります。

昔に比べ、高齢者でも副作用の出にくい睡眠薬が開発されているのでかかりつけ医はじめ医療機関にご相談ください。

不安・焦燥感を和らげる

徘徊の原因となっていることが多い、不安・焦燥感をターゲットにして和らげる作用のある薬を少量から開始することもあります。

徘徊されている、ということはご自身で歩ける方であるため、薬を始めたことでふらついて転倒することは避けなければなりません。ご本人の様子を観察してふらつきが出るようであればすぐに減量や中止をする必要があります。

すでに抗認知症薬や抗精神病薬を内服している場合はその副作用ではないかを考える

先に述べたように、症状を和らげるために飲んでいる薬の副作用でソワソワする症状が出ることがあります。

【アカシジア】といって身体や足がソワソワむずむずする感覚がしてじっと座ったり横になっていることができない症状です。

精神症状が悪化したのか、薬の副作用なのかは経過を注意深く観察しないと一発で判断することが難しい場合が多いため、処方して頂いている医師へこういう症状がいつから出て、どんなときに強くなるかなどご家族が分かる範囲でお伝えください。

実際にいなくなってしまった場合どうするか

まずは落ち着いて警察へ連絡しましょう。

  1. 110番へ電話する。
  2. 家族が認知症であること、迷子になったことを伝える。
  3. 迷子になったご本人の年齢、背格好、服装、持ち物など探すときの目印など聞かれたことに落ち着いて答えましょう。(ここで、その日の本人の全身写真を撮ってあることを伝えましょう。)

【徘徊高齢者SOSネットワーク】

引用:神奈川県横浜市「認知症高齢者等SOSネットワーク」

高齢者が行方不明になった時に、警察だけでなく、地域の生活関連団体等が捜索に協力してすみやかに行方不明者を発見・保護するしくみです。

全国各地の自治体や、警察、支援団体が連携して構築しているネットワークです。

タクシー会社や郵便局、ガソリンスタンド、コンビニ、銀行、宅配業者、コミュニティFM放送局、町内会、老人クラブ、介護サービス事業者など、日頃地域で活動している企業や住民団体などが、捜索に協力します。

行方不明となるおそれのある認知症の人の情報(身体的特徴など)を区役所や地域包括支援センターなどで事前に登録しておくことができます。事前登録しておくと、よりスムーズにSOSネットワークが使えるので役所へ相談しておきましょう。

おわりに

今回は、認知症の周辺症状の一つ【徘徊】についてお話しました。

なるべく具体的にお話したつもりですが、お役に立てれば幸いです。

お話した具体策を講じても、ご本人の安全を守るのに不安が残る場合は積極的に相談していただいて、くれぐれも抱え込むことのないように周りのサポートを得るようにしてくださいね。

くんぱす先生

認知症疾患センターに勤務する総合内科専門医。
日々の認知症診療で、患者さんを支える家族などのサポートが足りないことを痛感し、ブログやYouTubeでの発信を決意。
現場で働くからこそ伝えたいこと、お話したいことを発信。
保険診療では手が届かない「サポータ―のサポート」を日々診療にあたる医師目線で行うサイト。

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