こんにちは。くんぱす先生です。
私は認知症疾患医療センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。
診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。
このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。

人はこの毎日がいつまでも続く当たり前のように感じてしまうものです。
でも、人の命は有限。
いつの間にか年を取った親とあとどれくらい過ごせるのかな、とふと考えることがあります。
先日、こんなことがありました。
重症心不全で緊急搬送された高齢の女性がいました。
それまでは夫と二人暮らしでした。近隣に世帯を持ち家を出た息子さん、少し離れた町に嫁いで家を出た娘さんの二人のお子さんがいました。
お子さんお二人とも、ご本人が入院するまで
「そんなに心臓が悪かったなんて知りませんでした。お父さんがちゃんと薬を飲ませてたと思うんですけど、今思うと飲めていなかったのかもしれないです。」
とご本人の病態をよく知らなかったそうです。
心臓の具合は手術をしないと根本的に解決することが難しい状態でしたが、ご高齢であり大手術に耐えうる身体ではないと判断され、看取りを含めて私の病院への転院相談となりました。
おそらく、この患者さんは今後ご自宅へは帰れず、心臓の病態を考えると夫やお子さんと外出することも難しいと思われます。
お子さんたちからすると、突然母親の死を考えさせられる状態になったわけです。
これから、限られた時間の中でご本人の病態を咀嚼して受け入れていくしかいないわけです。
このように、親がいつまでも元気でいると思っているとその日は突然やってくるかもしれません。
親と過ごせる時間は思った以上に短い
みなさんは定期的に親に会っていますか?
社会人になり、実家を離れ、自分の世帯を持ってから、めっきり会う時間が減ってしまった方がほとんどではないでしょうか?
仕事や育児に追われて、自分の一人時間もままならない中、時間を作って実家へ足を運ぶ、、なかなか捻出できない時間ですよね。
その背景にはどこかで『親とはいつでも会える』『知らせがないのは元気な証拠ってことで』と今の状況がいつまでも当たり前のように続く前提の思い込みがありませんか?
平均寿命
厚生労働省が発表した令和4年簡易生命表によると、男性の平均寿命は 81.05 年、女性の平均寿命は87.09年とのことです。
これは健康寿命ではないことに注意が必要です。
元気に一緒に旅行したり、美味しいものを食べて過ごせる時間は自然に考えるともっと短いと予想されます。
簡易的に親が85歳まで生きると仮定すると
仮に寿命を85歳と過程して、現時点で親が65歳だとすると親が生きているのは20年ということになります。
年に1回帰省し、3日顔を合わせていると仮定するならば、
3日/年×20年=60日
生涯であと60日しか共に過ごせないという計算になります。(あくまで仮定で机上の計算上です。)
睡眠時間を考慮するとさらに2/3程度の時間となるでしょう。
そして、元気でいてくれる時間で考えるとさらに短い可能性が高いわけです。

その短い時間をどう過ごしますか?
ここからが本題です。
親と過ごせる時間が残り少ないと知った今、あなたは親とその時間をどう過ごしたいですか?
私の後悔
私は若くして父親を亡くしています。まだ私が結婚する前でした。
当時私はまだ医師として数年の若手で、総合病院で日中の勤務、当直、緊急オンコールなどをこなし自分のことで精一杯でした。
親がどんな体調不良があって、どんな薬を飲んでいるのか、健康診断を受けているのか、その結果は?などなにも把握していませんでした。
そんな折、親と二世帯で暮らしていた姉から連絡がありました。
『お父さん、最近顔色悪い気がするんだよね。今度実家に来たときに話聞いてあげて。』
久々に会った父親は確かに顔色が悪く、全体的にこけた印象で足にはむくみがありました。
結果、【肝臓がん】でした。
すでにかなり腫瘍は増大しており、転移もあり、余命半年程度とのことでした。
それからの時間、娘として父親になにかできたかというと何も思い出せません。
私の当時勤務していた総合病院に入院させてもらう期間もあったので、仕事のすきま時間に父の病室へ足を運び、なんてことない会話をする。
なんとなく病状が悪化していく父のそばにずっといられず、そんなに長い時間を共に過ごせませんでした。
多くを語らない父から、最期の残された時間をどうやって過ごしたいのかも聞けずすぐそばに迫る別れの時を待つほかなかったように思います。
私なりの現実逃避だったのかもしれません。
当時のことを思い返すと、父への申し訳ない気持ちと自身の弱さへの後悔の念があります。
当時の上級医に言われたこと
父を診て下さった上級医からこんなことを言われました。
『辛いと思うけど、がんって悪いことばかりでもないんだよ。
交通事故で突然、別れも言えずにいなくなってしまうことを考えたら、がんは残りの時間を与えてくれてるじゃない?
その時間をどう過ごそうか、本人も家族も向き合う時間があるから。』
確かにそうだな、とハッとしました。
残りの時間が分かった今
残りの時間が分かるというのは本当に大切なことです。
そして、この記事を読んでいるあなたはもう大切な人との残りの時間をだいたい予想できたわけですから、あとは”どう過ごすか”を考えて、”実際に行動”するのみです。

どう過ごしたらいいか分からない
当時の私のように、残りの時間を強く意識できたとしても何をしたらいいか分からない人は意外に多いと思います。
- 頭では分かっているけれど、気持ちが追い付かない
- 現実を受け止める強い心を持てない
とても分かります。私もそうでしたから。
そんなときは、「今別れがきたら自分は何に後悔するだろうか」と考えると思いつくかもしれません。
私の場合、
- もっと父の考えや思いをたくさん聞きたかった。
- 『お父さんの子どもでよかった。愛情をかけてくれてありがとう。』と伝えたかった。
- 父の作る思い出の料理の作り方を直接教えてもらいたかった。
- 昔の写真を一緒に眺めて、思い出話を夜な夜なしたかった。
もっとたくさんあります。
みなさんはこうやって思いついたことをなるべく早く実行してください。
残りの時間は平均寿命まで生きたと仮定してのお話です。お別れのときは誰にも決められないし、突然やってくることだってあり得るのですから。
この記事を読んだその次の週末には、是非実家に足を運んで一緒にご飯を食べながら『こんな記事読んでさ。なんか会いたくなっちゃったんだよね。』って伝えてあげてください。
直接会えないなら、電話でもオンラインでもいいです。
いつ来るか分からない別れが寂しいと思うなら、会うことができる”今”を大切にしてください。
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