こんにちは。くんぱす先生です。
私は認知症疾患医療センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。
診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。
このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。

以前、↑こんな記事を書きました。
大声、徘徊、暴力、、こういった症状のある患者さんの行き場がない問題で困っているケースが多くみられます。
現場で働く医師目線で、具体的な事例もご紹介しながら私なりの考えをお話します。
事例:施設入所を断られ入院となったケース
90代女性
自宅で孫と二人暮らしをしていました。
働き盛りの年代である孫は日中は就労しており、介護保険サービスを使ってデイサービスやヘルパーの介入を依頼していました。
ヘルパーに対して物とられ妄想が出て自宅に他人を入れなくなりました。
孫は在宅勤務の日を増やすなどの工夫をしましたが完全に見守ることは難しく、夜間不眠も出てきて在宅介護の継続は難しいと判断されました。
ご本人は「もうこんな歳だし、静かに自宅で過ごしていたい。色々してくれなくていい。」というお気持ちを吐露されておりましたが、見守らないわけにもいかない状況の中、ご家族が疲弊してしまったというケースです。
結果、入院していただくことになりましたが、「入院せずに何とかできなかっただろうか。」と考えさせられました。
施設へ直接入所できないのはなぜか
ヘルパーの介入を拒んでいる
これが施設入所を阻んだ理由だと思われます。
施設に入所された後に、介護拒否があると施設側は対応に困ってしまうわけです。
夜間不眠
施設の種別によっては、施設医が常駐しているところ(介護老人保健施設:老健など)もありますが、基本的に介護施設には医師は常駐していません。
嘱託医が2週に1度程度の頻度で往診に来るか、別途臨時の診察を依頼する必要があります。
そのため、睡眠薬など含め薬物調整を要する病態の患者さんは、直接入所を断られることが多いのが現状です。
外来通院で薬物調整を行って、改善したら施設に入所すればよいのではないか
外来で行える薬物調整は限られますが、まだ切迫した状況でもないので、通院して治療を行うのも一手かと思いました。
しかし、今回のケースではお孫さんが通院に付き添うことが難しいと判断されたようです。
介護保険サービス内か外かはさておき、ヘルパーが受診同行することは可能です。しかし、この方の場合、他人への警戒心が強く介入ができず、家族の同行も難しいとのことで外来通院ができないと判断されたようです。
今は、訪問診療クリニックも増えているので訪問診療を試すのも一手でしたが、相談があったときにはもうご家族が疲弊してしまっており、間に合いませんでした。
自宅にも施設にもいられない認知症の患者さんたち
介護拒否、大声、徘徊、暴言・暴力的行為など周辺症状がある認知症患者さんは、自宅でも過ごせず、施設にも入所を断られ八方塞がりとなるケースがあります。
そして、それは決して稀ではありません。
そういった行き場のない患者さんはどうするのか。
そういった周辺症状に対応できる病院への入院を考えることになるのです。
そして、以前の記事でお話したように対応できる病院は限られており、基本的には精神科病院となることが多いです。
そういった症状に対応できる入院病床は決して多くなく、高齢化が進む現状で認知症患者さんも増える中、対応しきれないのではないかと危惧しています。
認知症の外来診療はクリニック~大学病院まで行っているところが多いですが、『周辺症状に対しての治療』や『身体合併症の入院加療』ができる病院は数少なく充足していません。
周辺症状の対応・治療は病院側にも負担が大きいので、診よう(看よう)としない病院が多いのです。
身体合併症の治療のために入院した認知症患者さんが入院中にせん妄を起こすと「対応ができない。入院継続ができない。」といって強制退院・転院を余儀なくされることも現実に起きています。
認知症の周辺症状の対応、せん妄の対応が可能な場所、そういった患者さんの”行き場”をどう増やしていくかという課題に直面していると思います。
施設に入所できない症状になる前に
入院するしかない状況になる前に早めに相談することを私はこのサイトでお伝えしています。
ギリギリまで粘ってしまうことで、いざ在宅介護が破綻したときに「施設に入所できない」ということが起こりえます。
早めに専門職に相談しておくことで予期できる道すじは立てておきましょう。
入院は患者さんにとっていいことばかりではありません。
認知症の症状に対して入院加療を日頃している私から見ても、入院しなくて済む選択肢があるならばそちらを勧めます。
もちろん、早めに相談し準備をしていても症状の進行が早かったりして入院が避けられない場合はあります。
ただ、「もう少し早めに相談頂いていたら外来で調整できたかもしれない。」と思うケースがあるのも事実です。
お住まいの地域の【地域包括支援センター】や【認知症疾患医療センター】などをチェックし、前もって情報を共有しておくことをお勧めします。
こちらの記事で認知症疾患医療センターについてお話していますのでまだの方はどうぞ。
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