介護から解放され、うつ病になった家族

介護ケアの話

こんにちは。くんぱす先生です。

私は認知症疾患医療センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。

診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。

このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場だからこそ話せる、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。

くんぱす先生
くんぱす先生

以前、担当した患者さんのご家族のお話です。

介護で日々張りつめて生活しているご家族ならではの出来事だと思うので、自分は頑張りすぎていないか心の声に耳を傾けてあげるきっかけになれば嬉しいです。

ある患者さんの入院

団地に夫婦2人で暮らす患者さんがいました。

認知症の夫を介護する奥さま。

なんとか二人暮らしをしていましたが、旦那さんの腰の手術をきっかけに歩行が不安定になり、歩行器を使うようになりました。

その後も転倒を繰り返すようになり、奥さまの介護だけではご本人の自宅での介護が難しく入院の相談となりました。

入院直前の様子をお聞きすると、家の中ではご本人は歩行できず這いずってトイレに行っていたということです。

奥さまの力では旦那さんを支えることができず、そのような生活になっていたようです。

入院時の奥さまのご様子

入院時に私は今までのこと、これからのこと、ご家族の気持ちなどを時間の許す限りお話を伺うようにしています。

それは認知症診療において欠かせないことだからです。

その患者さんの入院のときも例外ではなく、これまでのことなどを奥さまから伺っていました。

家で介護しているときに、自分もいっぱいいっぱいになってしまってたくさんの言葉の虐待をしてしまった、、

涙ながらにこう私に話してくださいました。

遠方にいる娘や息子を頼ることはできなかった。

あの子たちにもそれぞれ家族があるし、孫は今年受験を控えていて大変なのも知っていたから。

  • 自分がいっぱいいっぱいであったこと
  • 誰かに頼りたかったけれどそれができなかったこと
  • 自分がどうにかしなければならないと背負ってきたこと
  • それを本人にぶつけてしまい申し訳ない気持ちであること

いろんな気持ちを小さな身体にたくさん背負って、やっとの思いで介護生活を一日一日過ごしていたことが伝わりました。

それと同時にこれからの不安も抱えていらっしゃいました。

入院になったとき本人の顔を見て、「この人はもう私を支えてくれないんだ。もう頼れないんだ。」そう思って急に寂しく不安になった。

数年毎日続いていた介護生活が、入院により一旦区切りがつき、寄り添った夫婦が離れることになります。

『いてくれる』という存在感が介護者にとっても安心に繋がっていたことに改めて気づかされたご様子でした。

1本の電話

旦那さんが入院して2週間ほど経過したある日、私のもとに奥さまから突然電話がかかってきました。

この数年間介護に明け暮れてきたけれど、夫が入院して急に解放され一人になった。

いろいろと考えていたら今朝突然、飛び降りたい気持ちになった。

先生、助けて。

この電話を受けるまで、奥さんがそこまでの気持ちになっているのに気がつきませんでした。

よくよくお話を聞き抑うつ状態であると判断して、精神科医の外来受診にその足で来ていただきました。診察の結果によっては奥さまの安全のために入院も検討しなければならないかもしれない、といった程度の抑うつ状態でした。

「助けて」の電話をかけて来てくれて本当に良かったと思います。

荷下ろしうつ病

長年連れ添った頼りにしていた夫が要介護者となり、四六時中介護に追われ必死に生活してきた奥さまは、気付けば自分では背負いきれない大きな荷物をなんとか背負った状態でふらふらでした。

そんなとき夫の入院をきっかけに、急に生活の大半を占めていた介護から解放されることとなりふっと肩の荷が下りた状態となりました。

家にいた時間のほとんどを占めていた介護はなくなり、長年2人で過ごした部屋に一人となった奥さま。

ふと、夫がいなくなってしまった寂しさや今後の不安に苛まれ抑うつ状態となってしまったのです。

【燃え尽き症候群】とも表現されますが、誰にでも起こり得ることだと思います。

特に、自分の限界を超えて自身に鞭を打ち踏ん張ってきた場合、ふと解放されたときに注意が必要です。

こんなときは相談しましょう

同じような境遇の方で以下の症状がみられたら早めに相談してください。

相談しやすい方で構いませんが、できれば医療従事者が安心です。かかりつけの医師に相談しにくい場合は、そのクリニックの受付の方や看護師さんでも構いません。

とにかく誰かに『つらい』『変』『助けて』『一人になりたくない』などどんな表現でもいいので伝えてみてほしいと思います。

私のこのサイトにコメントを頂いても構いません。

  • ご飯を食べる気分にならない。
  • 夜眠れない。
  • ソワソワと落ち着かない。
  • 理由もなく涙が出てしまう。

他にもいつもと違う、なんだか変だ、というときには相談して欲しいと思います。

奥さまの治療

抑うつ状態と診断され、精神科医の診察の上で外来で抗うつ薬の内服で経過をみることとなりました。

2週間毎に通院され、抗うつ薬がよく効き、テレビを見て声に出して笑ったり、ご飯を美味しいと思えるようになったり、外のコミュニティーに参加するようになったりと行動にも変化が現れました。

荷下ろしうつ病になりにくくするために

一番大切なのは、自宅で介護をしているときに一人だけで抱え込みすぎないことです。

荷下ろしうつ病になりやすい気質として、責任感があり抱え込みやすい人が挙げられます。

「私がなんとかしなければ」と気負いしすぎるのは、ご自身によっても介護される側にとってもあまりいい影響がありません。

自宅で介護している時期にも、介護者が自分のペースで過ごせる”自分時間”を設ける余白の時間を作れるように介護サービスやショートステイなどをうまく利用して頂きたいです。

まとめ

『介護から解放されたからもう大丈夫』

そう簡単な気持ちでは収まらないのが家族というもの。

長年連れ添った家族のライフイベントは、想像以上に家族に複雑な心境の変化をもたらします。

ご本人の介護や治療は医療機関や介護施設にお任せして状況的には一安心かもしれないですが、『これでよかったんだろうか』と自責の念を抱かれるご家族や、今後の事務的な手続きの煩雑さに混乱するご家族は少なくありません。

とにかく一人で抱え込まないでください。色々な事情で他の家族や親族に頼れない場合もあるでしょう。

今回のケースのように、入院先の主治医や看護師、相談員でもいいんです。

頭に顔が思い浮かんだその人に自分の気持ちを一言伝えてみてください。

くんぱす先生

認知症疾患センターに勤務する総合内科専門医。
日々の認知症診療で、患者さんを支える家族などのサポートが足りないことを痛感し、ブログやYouTubeでの発信を決意。
現場で働くからこそ伝えたいこと、お話したいことを発信。
保険診療では手が届かない「サポータ―のサポート」を日々診療にあたる医師目線で行うサイト。

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