妄想 ー周辺症状③ー

症状の話

こんにちは。くんぱす先生です。

【介護が難しくなる症状-周辺症状とは―】でお話した症状を一つずつ詳しくお話していきたいとおもいます。

まだ読んでいない方はこちらから読んでいただけると、より分かりやすいと思います。↓

今回は【妄想】についてです。

妄想とは

認知症の妄想とは、認知症ご本人が事実ではないことを現実に起きたことのように信じ込んでしまう症状です。

認知症でみられやすい妄想はどんなもの?

もの盗られ妄想

お財布など貴重品や大切な物を誰かに盗られた、という妄想です。

実際はご自身がどこかに大切にしまっていることが多いのですが、短期記憶障害によりどこにしまったか分からなくなり「誰かに盗られた!」と妄想に発展してしまうケースです。

悲しいことに、部屋へ出入りする身近な介護者へその妄想の矛先が向いてしまうため、ご本人と介護者の関係性を悪化させてしまうなど介護に影響が出ることがあります。

人の出入りへ警戒するようになり、ヘルパーなどの訪問介護サービスへの拒否へ繋がることもあり、介護の難しさを増す症状です。

被害妄想

周りの人が笑っているのを見て「私の悪口を言ってるに違いない。」と感じたり、散らかった部屋を見て「泥棒が入ってきた。」と思い込むなどの症状です。

人が関与することが多いので、幻視との鑑別が難しい場合もあります。幻視の場合は、今まさにそこに人(物)がいる(ある)ような行動をとることで鑑別できます。

不貞(ふてい)妄想・嫉妬妄想

配偶者が浮気をしていると思い込む症状です。

認知症により他人の行動や意図を正しく理解できず、不公平や疎外感を感じることが原因で起こります。男女ともに認められます。

「妻が隣の家に転がり込んでいる。」と夜中に隣家のドアをこじ開けようとしたケースや、「お父さんが訪問看護師とできている。」と訪問看護を断ったり、お父さんを布団たたきで叩くケースもありました。

どのように対応するか

このような妄想が出現する根底には、やはりご本人の不安感や疎外感といった感情があります。

非薬物療法

傾聴・共感

周囲は【妄想】と分かっていても、ご本人は現実だと思い込んでいるため頭ごなしに否定するのではなく、傾聴することから始めましょう。

ただ聞いてあげるだけでいいんです。その話の内容が事実か事実じゃないかは言及する必要がありません。

「そうですか。嫌な思いをされたんですね。」「それは怖かったですね。」

など、ご本人の抱える感情にまずは寄り添いましょう。

このような反応を示すことで、ご本人は「ああ、私の気持ちを分かってくれる人がやっといた。」と安堵します。リラックスしていただくことで、どうしてそのような気持ちになったのかを引き出すことができるようになります。

話を聞いていくと、ご本人が何を大切にしているのか、どんな不安を抱えているのかが見えてきます。そこに、ケアのヒントがたくさん詰まっているのです。

環境の工夫

もの盗られ妄想の場合は、”探しものを少なくする”ことが必要です。

いつも使うもの(財布、携帯、鍵など)は置く場所をご本人と一緒に決めて、写真に撮って視覚的に分かりやすくするなどの工夫ができます。

また、家の中のものを思い切って少なくすることで必要なものを見つけやすくすることも探し物を減らす工夫の一つになります。

読字に問題がなければ、目につくところにメモを残しておくのもいいかもしれません。

ご本人にできることはして頂き、「ありがとう」を伝える。

根底に不安や疎外感があることをお伝えしましたが、この感情をゼロにするのは難しいと思います。ただ、「自分はここにいていいんだ」と安心していただくことは在宅介護の上でとても大切なことです。

ご本人は、できないことが増え、家族に負担をかけていることを感じています。

そこでご本人にできる家事はやっていただくことで、「自分も家族の一員だ。」と尊厳を保つことに繋がる可能性があります。

実行機能低下により複雑なことは難しいかもしれませんが、例えば

  • 料理であれば、レタスをちぎってもらう、ひき肉をこねてもらうなど
  • 掃除であれば、棚の上や窓を拭く、ゴミをまとめるなど
  • 洗濯であれば、畳んでもらうなど

ご本人のできることを一緒に探してみて欲しいと思います。この年代の方は手先が器用な方が多く、仕事も丁寧なことが多い印象です。

本人・介護者ともに身なりを整える

認知症になると、ご本人も介護者も心に余裕がなくなりやすくなります。

そんなときこそ敢えて、一旦介護はお休みして介護者の休息の日を設けましょう。

お化粧をして、おしゃれして、久しぶりに美容院へ行って髪を整えてもらったり、ネイルをしてもらったり、マッサージを受けに行ったり、美味しい外食に行ったり。

ご本人が一緒にお出かけすることが難しい場合は、訪問でネイルやお化粧などをしてくれるサービスもあります。

我々、社会で生きる人間は身なりを整えることで気持ちがシャキっとしますし、生きる活力がみなぎる感覚を取り戻すことができます。

育児のときもそうですが、心に余裕がないときこそ、一旦離れてリフレッシュしていいんです。”自分”を一番大切にして欲しいです。

薬物療法

妄想から怒りっぽく攻撃的になり暴力的行為に発展する場合は、薬の力を借りた方がいいと思います。

ご本人も辛いでしょうし、介護者負担もかなり大きいのでお互いのために医療機関を受診して薬物調整をしてもらいましょう。

抗精神病薬については別の記事でお話しますね。

おわりに

今回は認知症の周辺症状の【妄想】についてお話しました。

まずは傾聴・共感することで、ご本人に安心していただくことから始めてみましょう。

それすら難しい場合は、助けを求めるときです。

あなたが頑張りすぎないよう、お役に立てれば幸いです。

くんぱす先生

認知症疾患センターに勤務する総合内科専門医。
日々の認知症診療で、患者さんを支える家族などのサポートが足りないことを痛感し、ブログやYouTubeでの発信を決意。
現場で働くからこそ伝えたいこと、お話したいことを発信。
保険診療では手が届かない「サポータ―のサポート」を日々診療にあたる医師目線で行うサイト。

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