抗認知症薬について

くすりの話

こんにちは。くんぱす先生です。

私は認知症疾患医療センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。

診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。

このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。

認知症の進行を遅らせる薬があるって聞いたけど、どういう薬なのかしら?

くんぱす先生
くんぱす先生

2023、2024年に新薬が出て、2025年現在では大きくわけて3種類の抗認知症薬が日本では使われています。

”進行を遅らせる”とだけ聞くと魔法の薬のように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、薬は必ず副作用があります。そのバランスをみて、特に高齢の方に対しての薬なので慎重に考える必要があります。

まずはどんな薬があるのかをお話します。 

3種類の抗認知症薬

  1. コリンエステラーゼ阻害薬
  2. NMDA受容体アンタゴニスト
  3. 抗アミロイドβ抗体

これらの使い分けは、認知症のタイプ重症度によって変わります。

前提としてどの薬も副作用に注意しながら観察期間をしっかりと置いて慎重に調節していきます。

1.コリンエステラーゼ阻害薬

1-1 ドネペジル

1-2 ガランタミン

1-3 リバスチグミン

脳内のアセチルコリンという物質を増加させることで認知機能低下の進行を抑制する作用があるといわれています。

これら3剤の治療効果に明確な差はないといわれています。

ではどのように使い分けているかというと、①認知症のタイプ②剤形(内服か貼付か)③認知症の程度によります。

認知症の症状の中でも『活気がない』『食欲がない』などアパシー傾向にある方へ使います。

怒りっぽさや興奮傾向にある方に使用すると、その傾向を助長してしまうことがありますので注意が必要です。

1-1. ドネペジル

商品名・適応

内服:アリセプト:1日1回:アルツハイマー型、レビー小体型

貼付:アリドネ:24時間毎に貼り替え:アルツハイマー型

認知症の程度:軽度~高度まで

ドネペジルの内服は昔から使用されていますが、2023年にアリドネパッチとして貼付薬が承認されました。貼付薬はアルツハイマー型のみ適応が承認されています。

内服と比較して血中濃度の上昇が緩やかであるため副作用の出現率が低いかもしれない点と用量を細かく増やす手間が少ないというメリットがあるといわれています。(薬価は内服より貼付薬の方が高いです。)

一方で、貼付薬はかぶれるなどの皮膚トラブルを生じる方もいます。

1-2. ガランタミン

商品名・適応

内服:レミニール:1日2回:アルツハイマー型

認知症の程度:軽度・中等度(高度には適応がない)

高度認知症には適応でないこと、1日に2回飲む必要があることが特徴です。

1-3. リバスチグミン

商品名・適応

貼付:イクセロン、リバスタッチ:24時間毎に貼り替え:アルツハイマー型

認知症の程度:軽度・中等度(高度には適応がない)

保険適応ではありませんが、高度認知症の方で食思不振傾向のある方へリバスチグミンを少量貼付する使い方を臨床上行うことがあります。〈アルツハイマー病患者の低食物摂取に対するリバスチグミン経皮療法の有効性:リバスチグミン効果研究で復活したアルツハイマー病患者の食物消費に対する態度/Geriatrics & gerontology international. 2019 Jul;19(7);571-576. doi: 10.1111/ggi.13644.〉

認知症分野では保険適応になるほどの研究データが集まっていないことが少なくありません。

コリンエステラーゼ阻害薬の有害事象

頻度が高いものは以下のような消化器症状や心電図異常です。

  • 嘔気・嘔吐
  • 下痢
  • 不整脈、徐脈など

内服開始後や増量後に消化器症状が出た場合は、処方医師に話してください。

2. NMDA受容体アンタゴニスト

商品名・適応

メマンチン〈商品名:メマリー〉:内服:1日1回:アルツハイマー型

認知症の程度:中等度・高度

中等度以上のアルツハイマー型認知症へ適応となっています。

焦燥感が強く、興奮傾向にある患者さんに特に適応です。

てんかんの既往のある方には使用できません。

NMDA受容体アンタゴニストの有害事象

頻度の高い有害事象は以下の通りです。

  • めまい、ふらつき
  • 傾眠
  • 便秘、食思不振
  • 頭痛

このような症状が現れ得るため、私は夕食後に内服するよう指示しています。

3. 抗アミロイドβ抗体

3-1. レカネマブ〈商品名:レケンビ〉:点滴静注

3-2. ドナネマブ〈商品名:ケサンラ〉:点滴静注

レカネマブは2023年9月、ドナネマブは2024年9月に【アルツハイマー病による軽度認知機能障害及び軽度のアルツハイマー型認知症の進行抑制】に対して承認されました。

脳内に溜まったアルツハイマー型認知症の原因物質といわれるアミロイドβという異常タンパクに直接作用して減少させるといわれています。

微小血管からの出血などの脳出血の副作用が指摘されており、治療経過中に複数回MRIによる画像検査をする必要があります。

現在は、要件を満たす医療機関でのみの使用に限定されています。そのため、適応がありそうで患者さん自身の治療希望がある場合は、対応可能な病院へ紹介受診する流れとなります。

臨床で使われるようになってからのデータを製薬会社が集めているところなので、有害事象の頻度や効果が明らかになってくるのはもう少し先になりそうです。

レケンビについてはレケンビ®の治療を始める方とそのご家族向けサイト – エーザイ

ケサンラについてはケサンラ®による治療を受けられる患者さん向けサイト/日本イーライリリー株式会社。

適応か否かは診察した専門医が判断します。クリニックなどで適応と判断されても、精査の上適応でなかったとなることもあります。

まとめ

2025年3月時点での抗認知症薬についてなるべく簡単にまとめました。

保険適応となっている認知症のタイプや、重症度、剤形などを鑑みてどの薬を使うかを判断しています。

高齢の方は副作用にも特に注意が必要なので、少量から始めて慎重に経過を判断していきます。

新薬に関しても今後の動向に注目ですね。

くんぱす先生

認知症疾患センターに勤務する総合内科専門医。
日々の認知症診療で、患者さんを支える家族などのサポートが足りないことを痛感し、ブログやYouTubeでの発信を決意。
現場で働くからこそ伝えたいこと、お話したいことを発信。
保険診療では手が届かない「サポータ―のサポート」を日々診療にあたる医師目線で行うサイト。

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