こんにちは。くんぱす先生です。
【介護が難しくなる症状-周辺症状とは―】でお話した症状を一つずつ詳しくお話していきたいとおもいます。
まだこちらの記事を読まれていない方は、先に読んでいただくとより分かりやすいと思います。↓
今回は【不安・焦燥感】についてです。
不安・焦燥感(しょうそうかん)とは
不安や焦りが混ざり、落ち着かない状態を指します。焦燥感には、思い通りにいかず焦ったり、イライラしたりするといった感情が伴います。
私たちもこんな気持ちになることがありますよね?認知症患者さんは、よりこういった感情を抱えることが多く、「自分がなぜこんな気持ちになるのかの理解」や「この感情を言語化して他者へ伝えること」が難しく、さらにもどかしい気持ちが募ることが多いです。
なぜそうなるのか
では、なぜ認知症の患者さんは不安・焦燥感を抱きやすいのでしょうか。患者さんの気持ちを一緒に想像してみましょう。
認知症ケアにおいて、この”想像してみる”というステップが常に重要になります。
先に述べたように、認知症患者さんは自分の思いや気持ちをうまく言語化することが難しい場合が多いです。そのため、「なんで?」「どうして?」と聞かれてもうまく答えることができません。
そこで、周りの我々ケアにあたるものが想像力を働かせることが、症状を和らげるために必要不可欠なのです。
では早速、ご本人が不安になったり焦りの気持ちが出る原因に関して想像してみましょう。いくつか考えられることを挙げてみます。
もの忘れ(記憶障害)が増えたことへの不安
よく、「認知症になると自分がもの忘れがある自覚がなくなる」と言われますが、初期の段階ではご本人も自身のもの忘れ症状に気付き、”認知症かしら?”と不安になったり焦りが出たりします。
片付けたと思った場所に物がなかったり、「もう、約束してたじゃない」などと知人に言われたり、、
今まで信じていた自分自身が信じられなくなる、という辛い思いをする時期があると想像できます。
常に「何か忘れてしまっていないだろうか」とソワソワし、「これから自分がどうなってしまうのか」と不安に違いありません。
見当識障害
時間・場所・人など、自分が置かれている状況を把握する能力が低下する障害です。
認知症の中核症状のひとつで、記憶障害と並んで早期に現れます。
時間の感覚が分からなくなり、落ち着けていた自宅がなんだか他人の家のように感じて落ち着けなくなったり、知らないはずの人に「久しぶりじゃない、〇〇さん」と言われたり、、
みなさんは童話【浦島太郎】はご存じでしょうか。私は子どもの頃から親しんできたお話です。
子どもの頃にはなんとも不思議なお話だ、と思っていましたが、認知症診療に携わり、当事者目線で想像力を働かせるにつれて、この【浦島太郎】の最後の描写は認知症症状を表現したものではなかろうか、と思うようになりました。
竜宮城でしばらく楽しんでいた浦島太郎が、陸へ帰りお土産の玉手箱を開けると、、村の様子はすっかり変わってしまい,知っている人は一人もいなくなっている、という描写です。これは見当識障害を描いたものだったのかもしれないと思うのです。
本当のところは分かりませんが、浦島太郎は認知症で、若い頃の自分と現在の自分を行き来していたのかもしれません。
実行機能障害
実行機能障害とは、物事を計画したり、順序立てて実行したりすることが難しくなる症状です。認知症の中核症状の一つで、日常的な生活に支障をきたす可能性があります。
私たちの日常生活で毎日のように行っていることは、意外とこの実行機能に支えられているものが多いです。例えば、料理や洗濯などがそれにあたります。
料理の段取りや火加減がうまく行かず焦がしてしまったりすることが増えたり、洗濯機を回す上で洗剤をどこに入れるか、どのボタンを押すかなどが分からなくなります。
他にもリモコンの使い方が分からず、猛暑や極寒の中体調不良をきたすなどもこれにあたります。
失認・失行
【失認】とは、視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの五感に異常はないのに、目の前の物や状況を理解できない症状を指します。
【失行】は視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの五感に異常はないのに、目の前の物や状況を理解できない症状を指します。
これら【失認】【失行】により、日常的な動作、例えばトイレで排尿することや、着替え、整容(歯ブラシや入浴など)、食事動作などの日常的な動作に支障がでます。

これらの認知症の中核症状が出現することで、ご本人はできないことが増えるため不安や焦燥感が高まる原因となります。
気付いてあげることが第一歩
ご本人自身もなかなか気が付かないのが、この症状です。そしてもしご本人がなんとなく、なんか変だなと思ったとしても、なかなか言語化して周囲に「不安なの。そわそわするの。」と伝えられない抽象的な症状なのです。
さらに他の周辺症状のベースにあることが多いため周囲もなかなか気づいてあげられず、表面に出ている症状に気が取られてマスクされてしまうことがあります。
対策
非薬物療法
「なぜそうなるのか」の章でもお話したように、背景にあるご本人を戸惑わせている原因を探ると、すべき環境の工夫がみえてくることがあります。
特に実行機能低下により日常動作に支障がでている場合は、よく観察すると一つの行動のどの部分に躓いているのかが見えてきます。
例えば、着替えが今までのようにうまくできないとしましょう。
着替えの中でも、どの洋服なら着替えやすそうで、着替えにくい服はどんなものかを観察してみると、”ボタンが難しい”ということが見えてきたり、被るタイプの服だと”前・後が分かりにくい”ことが見えてきます。
そこまで分かれば、ボタンをマジックテープへ変えたり、前後が分かりやすいデザインの服に新調するなど工夫することができます。
このように、できないことは大枠で捉えてしまうとその行動自体をご本人から取り上げてしまうことになりかねないので、できるだけ細分化して”どの部分”ができないのかを掘り下げて観察して欲しいと思います。
これにより、ご本人ができることを可能な限り残してあげられるので自信を奪いにくくなります。
薬物療法
非薬物療法として環境の工夫を重ねてもなかなか改善しない場合ももちろんあります。
そんなときは非薬物療法は続けたまま、薬の力も借りてみましょう。大切なのは”非薬物療法の工夫は続けたまま”ということです。
認知症において、環境やケアの工夫を差し置いて薬物療法が前に出てくることは有り得ません。
こんな時に使用する抗精神病薬に関しては別の回でお話しますね。
おわりに
このように、他の症状の原因にもなる【不安・焦燥感】。
認知症のほとんどの方が何かしらの不安や焦りの気持ちを抱えていることを、私たち周りのサポーターは汲み取ってあげる必要があります。
そのうえで、観察や対話をしてご本人が何に困っているのか、こういう工夫をしてみてはどうかと試行錯誤を繰り返して、何とか日常生活を過ごせて行けるようにサポートしたいですね。
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