認知症の受診拒否、どう対応する?【お悩みQ&A】

お悩みQ&A

こんにちは。くんぱす先生です。

私は認知症疾患医療センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。

診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。

このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。

くんぱす先生
くんぱす先生

先日、認知症疾患医療センターを担う精神科病院への即日入院依頼がきました。

即日入院(今日の今日入院させてくれ!という入院)が必要になるまでの事態になってしまったのはどうしてでしょうか。

そのケースで感じたことをお話していきます。

どんなケースか

自宅で1人暮らしの90代女性

年始から夜間不眠がでてきました。

その後、物盗られ妄想や被毒妄想(食事に毒が入っていると思い込む妄想)もでてきました。

妄想に囚われ、離れて暮らす家族や110番に電話を頻回にするようになりました。

妄想が出現してから2か月後にはヘルパーの介入拒否、医療機関の受診拒否があり家から連れ出すことが難しくなりました。内服ができているのか、食事を十分にとっているのかご家族も把握できていませんでした。

ある日、たまたま医療機関への定期受診に連れ出すことに成功したタイミングで精神科病院の認知症治療病棟への即日入院の相談となり入院の運びとなりました。

注目していただきたいのは、妄想が出現して2か月後にはもう介入を拒否するほどの症状になっているというスピード感です。

特に独居生活が永く、「自分一人でやってきた」と自負のある患者さんでは特にサービス介入や病院への受診拒否が見受けられる傾向にあります。

入院になる前に手立てはなかったのか

高齢者の入院はあまりいいことではありません。

入院診療をしている医師の立場だからこそそう思います。

その理由はこちらの記事で話したのでまだご覧になっていない方はどうぞ。

できるだけ入院せずに症状を、外来もしくは訪問診療で軽減できなかったかというのはいつも考えます。

それくらい「入院するしかない」という病態は避けたいのです。

受診できない場合の対策

では、受診拒否がある場合にどんな対策をしていくべきかについてSTEPに分けてお話していきます。

STEP1. 理由を尋ねる

なぜ受診したくないのかをご本人から引き出してみましょう。

ご本人なりに理由があることが多いので、寄り添う気持ちで正直なご本人の気持ちに傾聴してあげてください。

このとき、その理由に対して「でもそれは、、」と正論をぶつける必要はありません。「そうなんだね。そういう気持ちなんだね。」でいいと思います。

おそらくこんな理由が多いと思います。

  • その病院(もしくは病院という場所)になにか嫌な思い出がある。
  • 受診しても良くなるわけじゃないと思っている。
  • 主治医、スタッフとの相性が悪い。
  • 処方された薬で具合が悪くなった経験がある。
  • 受診することで、自分が認知症であることを再認識させられるのが嫌。

STEP2. どうしたいか尋ねる

理由が分かった上で、ご本人はどうしたいと思っているか聞いてみましょう。

「そうは言っても歳だし、病院に行った方がいいことは分かっている。」

内心、こんな思いでいるのではないでしょうか。拒否して家族を困らせていることは波はあれどなんとなく感じているはずです。

事実、受診に来られる患者さんはこうおっしゃいます。

私は特に困っていることはないんです。けれど、家族がなんか大変みたいで。よくわからないんですけどね。

つまり、受診も自分のためではなく家族が「行ってくれ」というもんだから仕方なく来た、というお気持ちだということです。

受診したほうがいい気持ちが少しでもご本人の中にありそうならば、STEP3です。

STEP3. 選択肢を提示する。

例えば、こんな感じです。

  1. 今までの先生のところに〇日に行ってみよう。一緒に行って○○の美味しいもの久しぶりに買って帰ろうか。【従来の受診を継続】
  2. 家まで来てくれる先生がいるみたいなんだけど、そうしてもらう?【訪問診療の提案】
  3. 〇〇さん(ご本人が信頼を寄せる人)がオススメしてくれた病院があるからそっちに行ってみる?【新たな医療機関への受診】

選択肢は何でもいいのですが、ポイントはどの選択肢を選んでも”受診すること”になる、ということです。

ご本人がなぜ受診したがらないのかの理由によって、その理由が解決されるような選択肢に変えてください。

大切な心持ち

ここで介護者のご家族にお伝えしたいのは、『一発でうまく行けばラッキー。うまく行かなければまた違う策を講じればいい。』という心持ちが大切だということです。

皆さんは結論を急ぎすぎる傾向にあると感じています。お忙しい中介護をされているのでお気持ちは十分すぎるほど分かります。

けれど、自分より何十年も生きてこられた人生の先輩に動いてもらうのは一筋縄ではいきません。

そしてご家族には可能な限り、ご本人にとって安心できる味方であり続けて欲しいと思っています。

精神的に疲れが溜まってきているな、もう優しく待ってあげられないな、っていうときには、ご本人にとっては赤の他人であるプロに任せましょう。

悪役(語弊がありますが)は他人が担う方がいいと思います。緩衝材としてプロを挟んで下さい。

認知症初期集中支援チーム

あの手この手を講じても、なかなか破綻した生活から一歩動かすことが困難な場合は国が配置する【認知症初期集中支援チーム】へ相談することも可能です。

複数の専門職が家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的(おおむね6ヶ月)に行い、自立生活のサポートを行うチームをいう。

(参考)認知症初期集中支援チームについて/厚生労働省

在宅生活は破綻しているもしくは破綻寸前なのに、医療機関への受診拒否、訪問診療の訪問拒否、介護サービスの介入拒否などでそれ以上先に進めないときには相談してください。

私も認知症初期集中支援チーム員で医師として訪問することがあります。

ご本人がなぜ拒否しているのか自宅に伺って話を聞いたり、その日にそのまま一緒に病院へ連れて行って受診の形を取ったりと臨機応変に対応しています。

介入して6か月経過する頃には医療機関に繋いで、その後の診療継続をお願いする形となります。

受診はできても、拒薬がある場合

せっかく受診できるようになったとしても、妄想や介護抵抗、拒否などの周辺症状を軽減する目的で処方された薬を飲んでくれないと困りますよね。

拒薬に関してはこちらの記事でお話しているので、まだお読みでない方はどうぞ。

受診拒否然り、内服拒否然り、”拒否”の背景にあるご本人の気持ちを無視して介護者都合で進めると事態は悪化することが多いのが事実です。

『なんでこんなことするの?』

という行動があるときには責めずにその行動の背景にある気持ちを引き出してみてください。

今回のケースのその後

実際にご本人とお話してみるとこんな感じでした。

おうちで1人で暮らされていて困ったことはありませんでしたか?

いいえ、特に私は。まあでも歳ですからね、多少なりとも難しいことが増えましたけれど。

ご家族や110番によく電話をかけていたと聞いたんですが、何か怖いこととか不安なことがあったんじゃないですか?

実はね、日常には起きないようなことが色々とありまして。

耳元でザーザーと音が鳴りやまなかったり、物がなくなったりして、ノイローゼになりそうだったんです。

問診する中で、見当識障害などもなくご本人の認知機能はほとんど低下していないように見受けられ、あっても年齢相応程度の認知機能低下レベルでした。

結局、ご本人は『自宅で1人で暮らすのは不安だから入院したい。今後も施設入所を考えたい。』と仰られました。

こうやって時間をとってご本人とお話をしていくと入院を挟まずに施設入所も考えられたかもしれないなと感じました。

今回は妄想症状が出てから拒否という行動化までのスピードが比較的早く、施設入所の手配が間に合わなかったかもしれませんが、ご本人の抱える不安を傾聴することが外来通院でできていたら、、と思ったケースでした。

気持ちの引き出し方

やり取りをご覧になっていかがでしたでしょうか?

最初に、『困ったことはありませんか?』と聞いたときには『いいえ。ありません。』とお答えになっていますが、具体的にあったエピソードをご本人にお話したところ『困っていた。ノイローゼになりそうだった。』と本当の気持ちを吐露しはじめてくれました。

普段、私たちも困ったなというときに『大丈夫?手伝おうか?』と声をかけてもらっても反射的に『大丈夫』と答えてしまうことはありませんか?

本当の気持ち、『助けて欲しい』という気持ちを引き出すポイントがここにあります。

具体的なエピソードを直接投げかける

『あなたが困っていることは知っているよ。話していいんだよ。』と示すことになるので、ご本人も話しやすくなります。

万が一、実際のエピソードを投げかけても『そんなことはありません。』と否定される場合には、短期記憶障害があることが疑われますので、それも診察で得られる情報の一つになります。

相手の真意を引き出すには、まずは相手に信頼される必要があります。

この手法はFBI交渉人なども用いるもので、「この人は話を聞いてくれる。否定されない。」と思う相手にしか人は本音を語りません。

決して説き伏せようと正論をぶつけるのではなく、相手のペースに合わせて傾聴することに徹してみてください。

まとめ

今回は【受診拒否】についてお話しました。

”拒否”に対してはまずは”傾聴”です。

なぜ拒否しているのか話を聞いてみてください。きっとそこにご本人のこだわりのヒントがあるはずです。

話している間に、ご本人が怒ったり暴力的になったりする場合は、認知症周辺症状の『易怒性・興奮』の可能性が高いので併せて医療機関へ繋がる方法を探してみて欲しいと思います。

訪問診療の導入や認知症初期集中支援チームの介入の必要性の相談など様々な手段があるのでご家族だけで抱え込まないようにしてくださいね。

くんぱす先生

認知症疾患センターに勤務する総合内科専門医。
日々の認知症診療で、患者さんを支える家族などのサポートが足りないことを痛感し、ブログやYouTubeでの発信を決意。
現場で働くからこそ伝えたいこと、お話したいことを発信。
保険診療では手が届かない「サポータ―のサポート」を日々診療にあたる医師目線で行うサイト。

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