こんにちは。くんぱす先生です。
私は認知症疾患センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。
このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。
診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。

今回は、【認知症の予防】について今現在分かっていることをお話します。
介護をしながら、「自分も将来認知症になるのかな」と心配になる方は多いです。
人は、”知らない””分からない”ことに不安や恐怖を感じます。
認知症について少しずつでも知っていくことでむやみに恐れず、一歩一歩進んでいくことができると思うのです。
この記事を読むことで、”今あなたにできることは何か”をはっきりさせて、闇雲に未来に不安にならずに今を見つめることができたら嬉しいです。
*この記事を書くにあたり一部参考にさせて頂いたのがこちら↓。国立長寿医療研究センターが作成した患者さん・ご家族向けのハンドブックです。外来患者さんにもおすすめしています。一度もご覧になったことがない方は是非。
今回は生活習慣病と認知症の関係についてを主にお話ししていきます。
糖尿病や高血圧の治療中の方、健診で指摘のあった方は特にゆっくり読んでみてください。

生活習慣病があると認知症になりやすいって本当?
【YES】 はい、本当です。
生活習慣病とは、食事・運動などの生活習慣が原因となって引き起こされる病気を総称したものです。
具体的には糖尿病、高血圧症、肥満、脳卒中、脂質異常症などを指します。
生活習慣が原因でこれらの病気を発症するとも限らないので、個人的には「生活習慣病」というネーミングはあまりピンときていませんが、一般的に伝わりやすいことを優先して使わせていただきます。
これらの疾患は全身にある細い血管を傷つけることで重要な臓器に機能障害を生じます。
”脳”も例外ではありません。
脳の細かい血管が傷つくことで、その部分が担う機能が低下して”認知機能低下”を引き起こす可能性があるのです。

年齢によって認知症との関係性が変わる
「中年期」(45歳~64歳)と「高齢期」(65歳~)で認知症との関係の強さが違うといわれています。
ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、45歳~「中年期」に分類されるんです。
45歳頃はまだまだ仕事も子育ても真っ只中で、自分のことにあまり時間を使えない忙しい時期だと思います。けれど、”予防”という観点からはもう意識し始めるべき年齢なのです。
各生活習慣病において、年齢と認知症の関係の深さについてお話していきます。
糖尿病
2011年に行われた九州に住む方を対象とした研究では、【糖尿病の方は血糖値が正常な方と比較して2.1倍、アルツハイマー型認知症になりやすい】ことが分かりました。(「わが国における高齢者認知症の実態と対策」:久山町研究(九州大学大学院医学研究室))
理由ははっきりと断定されていませんが、現時点ではこう推測されています。
脳内のインスリン作用の低下や酸化ストレスの増加、高インスリン血症などが脳内にアミロイドβという悪玉物質がたまるのを促進している可能性が考えられます。
認知症になった後でも、高い血糖が長期間つづくことで、認知機能の低下や認知症の進行が早まる可能性があります。
認知症になると血糖の管理が難しくなるため、中年期(45歳~64歳頃)の血糖管理が認知症予防のキーポイントとなります。
厳密に血糖値をコントロールしていても、認知機能の低下を防ぐことができないことが2015年の研究で明らかにされています。
重症な低血糖が起こると、認知症になる割合が1.7倍に増加することも報告されています。厳格な血糖管理により低血糖のリスクが高まることも報告されています。(「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」/日本糖尿病学会、日本老年医学会)
ここまでの内容をまとめます。
- 糖尿病ではアルツハイマー型認知症になるリスクが約2倍
- 予防の観点からは45歳~の中年期の血糖管理が大切
- かといって、厳密に管理することで低血糖のリスクが高まると認知症発症リスクがあがる
- 緩やかな血糖管理が推奨されている
高血圧
中年期(45歳~64歳)で高血圧の人は、高齢期(65歳~)で認知症(アルツハイマー型認知症、血管型認知症)になりやすいといわれています。
さらに、血圧は高くなるほどその危険は高くなることが分かっています。
先に述べたように、高血圧により血管に障害がおきると大切な臓器(脳や心臓)の機能障害に繋がるため、中年期から高血圧の治療は積極的に行いましょう。
健診で「血圧が高めです」と言われた方は放っておかずに早めに受診をしましょう。
血糖コントロールと同じように、血圧も低ければいいわけではありません。適正な範囲でのコントロールが望まれます。
減塩
1日の推奨塩分量は男性が8g未満、女性が7g未満といわれています。(厚生労働省「日本人の食事摂取基準」2015年版)
以前言われていた基準よりもだんだんと基準が厳しくなってきています。
日本の食卓では長期保存のために塩分の濃い料理や、しょうゆや味噌などが伝統的に使われているので、中年期以降の方は特に舌がその味覚に慣れてしまっているため難しいと感じると思います。
でも、習慣って”慣れ””くせ”なんですよね。
日本には心強い味方がいます。【だし】です。
うまみを大切にする調理法がご家庭にも普及しているので、だしを効かせることで塩味を少なめにすることができます。スーパーでも塩分フリーのだしが売っています。

外食や出来合いの総菜は、万人が”おいしい”と思うように塩味が濃いめに作られています。基本的には自炊にして、まずは塩分の【見える化】をして、現状を知ることが重要です。
以下に今日からできる減塩のポイントをまとめます。
- 調味料はかけずに”つける”
- レモン、酢、スパイスで風味を増す
- 調味料を買うなら減塩タイプ
- 加工食品や漬物を買うのを控える(漬物は家で簡単にできます)
- ラーメンの汁は飲み干さない
未来を見据えて、今日から少しずつ。
肥満
中年期では太っているほど認知症になりやすいですが、高齢期では痩せすぎや急に痩せることが認知症のなりやすさに関連しているといわれています。
年齢によって、異なるのが興味深いですね。
中年期(45歳~64歳)
太りすぎないことが認知症予防につながります。
高齢期(65歳~)
BMIが20未満の痩せ体形や、2年間でBMIが5%以上減少した人は認知症になりやすいという研究結果があるそうです。
急激に痩せないようにバランスのとれた食事を安定して召し上がっていただいたほうがいいんですね。
脳卒中
脳梗塞(脳の血管が詰まる)、脳出血(脳の血管が破れる)をまとめて脳卒中といいます。
脳の話なので、脳卒中を発症した方が認知症になりやすいのは簡単に想像できるとおもいます。
脳卒中により脳の一部の機能が低下することで、認知症の発症に影響を及ぼします。
まずは脳卒中にならないために他の生活習慣病のコントロールを適正に行うこと、禁煙、適度な飲酒にとどめるなどの取り組みが必要です。
脂質異常症
中年期に総コレステロール値が高いと認知症になりやすいといわれています。
高齢期の脂質異常症と認知症の関係はまだ明らかになっていません。
しかし、先に述べたように脂質異常症をコントロールせずに放っておくと血管が詰まりやすくなり脳梗塞のリスクが高まりますので間接的に認知機能低下につながる可能性があります。
脂質異常症の治療の基本は、バランスのとれた食事と適度な運動習慣です。
まとめ
認知症の予防のお話をしました。
45歳以降の中年期からのコントロールが大切だということが分かりますね。
働き盛りで、子どもも待ったなしで成長し、親の介護も、、と仕事に家庭に大忙しの世代だと思います。
それでも、自分のことをないがしろにせずにいつまでも健康でいることこそが、あなた、そして家族の笑顔に繋がります。
自分の”今”を見つめなおすきっかけになれれば嬉しいです。
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