こんにちは。くんぱす先生です。
私は認知症疾患センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。
このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。

今回は、私が診療する上で大切にしている基本的な姿勢についてお話します。
認知症介護に携わる方々に参考にして頂ければ嬉しいです。
その人となりと知る(現在)
「人となりを知る」とは、辞書で調べるとこういった具合に書いてあります。
対象となる人の態度や言葉遣いなどから、その生まれ持った性質や品位を察すること
”態度や言葉遣いから”とあるように、その方とお話したり所作をみたりして「どんなときに表情を変えるか」「家族への接し方」などその人の【人となり】を知るための情報を集めていきます。
これは認知症に限らず、人と人が接するときには「この人はどんな人だろう」と思いを馳せながら会話していきますよね。それとほとんど一緒です。
今現在の様子をこのようにして知っていきます。私の場合は”診察”なので、他愛もなさそうな会話から認知機能低下がどの程度か、中核症状(見当識障害など)はどうか、周辺症状の有無・程度、現在抱えている課題などを判断していきます。
生活史を知る(過去)
現在の様子だけではなく、過去の軌跡についても伺います。
ご本人に語っていただくことが可能であればその方が得られる情報は増えます。
なぜなら、軌跡を語るご本人がどの時期の話をするときに一番熱を込めて活き活きと話されるかが分かるからです。その時期こそ、ご本人が大切にしている軌跡であり、今現在のご本人の糧になっていることが多いからです。
仕事を立ち上げたときの苦労話であったり、子育てに一生懸命だった時期の話だったり、ご主人との馴れ初めであったりと十人十色です。
特に同じ内容の話を繰り返して話す場合は、とりわけその話を今までも他の人にしてきたであろうことが予想され、ご本人にとって影響を色濃く与えたエピソードなんだなと察することができます。
どんなことを聞くのか
- 出生地 地名のみならず、どんな場所だったのかも聞くと回想法にもなって良いです。
- 家族構成(兄弟は?何番目?兄弟関係は?)家族の中でどんな立ち位置だったのか、親や兄弟からの愛情を感じていたかなど。
- 学歴 最終学歴を伺うことが多いです。学校教育をどの程度受けてきたかが分かります。
- 職歴 どんな職種だったか。ここは一番ケアに繋がるので詳しく聞きます。
- 婚姻歴・離婚歴 若くしてご結婚されたのか、一人で子どもを育ててきたのかなど。
- 挙児(妊娠歴含め)お子さんが今どうしているのか、近くにお住まいなのかなど。
- 趣味・嗜好 編み物や和裁・洋裁が好きなら手先は器用な方なんだな、とか、他人との交流が好きなタイプかなどを想像します。
一方的に根掘り葉掘り聞くと、尋問を受けているように感じる方もいらっしゃるかもしれませんので私は自分の話を織り交ぜながら、「あなたに興味があって聞いています。」というスタンスで伺います。
自分のことも手短に語るのがポイントです。この年代の方はコミュニケーション能力が高い方が多いので、「あら、そうなの?大変ね~」など会話の合いの手もお上手です。
そうこうしている間に、警戒心が緩んでいくのが分かります。
そして最後のほうには「楽しかったわ、また会いに来るわね。」と笑顔で帰って行かれます。
日常的にゆっくりと話を聞いてもらうことが少ない方こそ、こういった機会があると嬉しく感じるようです。私たちケアするサポーターは、ただただ話を聞いてあげるだけで十分なのかもしれません。

今なにが課題なのかを考える
現在と過去がなんとなくわかった段階で、今の課題について考えます。
ご本人がどうして困った行動をとるのか、そこにどんな意思・意図があるのかを考えるのです。
ここまで語ってきた間柄なので、直接ご本人に伺うことも多いです。
「娘さんはあなたが薬を飲んでくれないことが心配なんですって。飲まないのは本当ですか?」
と、まずは事実確認からします。
というのも、ご本人が自覚している行動なのかを知りたい意図もあるからです。
飲んでないつもりじゃないのに、初めてあった人に「なんで飲まないの?」と言われていい気分はしませんよね。そこで、私はご本人に事実確認をします。
例えば、例のようなシチュエーションで、
「飲んでますよ。娘が疑うだけです。」
と答えが返ってきたら、あなたはどうしますか?
① 「娘さんは飲んでないっておっしゃってますよ。どうして嘘をつくんですか?」
② 「そうですか。あなたが飲んでいることが娘さんには伝わっていないみたいですね。」
正解はないんですが、①の”嘘をつく”というフレーズは強すぎると思います。
娘さんとご本人を対立させたくないので、どちらかに味方に付くような印象を与える言動は避けます。
そして②のように、困っているご家族の前でご本人の気持ちを代弁する立ち位置になります。
そうすることで”誰が悪者か”ではなく、”どうしたらよくなるか一緒に考えよう”という視点になると思うからです。
また、今回のケースで本当はご本人は薬を飲んでいないのが事実であった場合は、ご本人は”飲んだ”と思い込み、自覚なく内服していないということが分かるので、環境や声掛けの工夫が必要だということにも気づきますね。
具体的な工夫を考える
課題が明らかになったところで、どうやったら解決できるかを考えます。
先ほどのシチュエーションでは、”薬を飲んでいない”ということが解決すべき課題ですね。
さらに本人には自覚がないことも分かりました。
となると以下の解決策はいかがでしょうか。
【”飲んだ”ことがご本人に一目で分かる工夫】
- 服薬カレンダーの利用:薬がなくなっていれば”飲んだ”と分かる。
- 1週間の服薬ボックス:飲み終わったら蓋を開けておく。
【服薬タイミングを1日1回にまとめる】主治医へ相談
こういった具体策を一つずつ試してみて、ご本人の反応をみて、再度工夫して、、、を繰り返します。
詳しくは以下の記事でもお話していますので、お時間のあるときにお読みください。
まとめ
今日のポイントはこちらです。
- 今の様子をよく観察する。(所作、態度、言葉遣い、人への対応の違いなど)
- 軌跡を伺う。(大切にしているもの(こと)、価値観を察する)
- 家族の抱える課題をご本人にも共有する。
- その反応をみる。
- 具体的な工夫を提案する。
このステップの繰り返しです。
共通しているのは、とにかくよくご本人の話を聞くことです。
信頼関係は一朝一夕では成り立ちません。私たちが「どんな方だろう」と思うのと同じようにご本人も「どんな人だろう?」と思いながら様子を伺っているはずです。
10人いれば10通りの介護があるように、その方の価値観・意思を知らずして治療・ケアを続けることは難しいと思います。
そして、こういったことを保険診療内で限られた時間の外来で行うのが難しいため介護の抱える課題を解決するのが難しくなっているな、と感じています。
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