こんにちは。くんぱす先生です。
私は認知症疾患センターに勤務する医師で、認知症予防健診から終末期のお看取りまで認知症の全段階の診療を日々行っています。
このサイトでは、日々認知症診療に携わる医師の立場から、認知症介護をされている方にとって助けとなる内容を発信しています。診察室では認知症ご本人の診察が中心となってしまうので、介護者のサポートがしたくてサイトを立ち上げました。

【お悩みQ&A】では、認知症介護でよく遭遇するお悩みに医師目線でアドバイスをしていきます。
あなたの悩みは自分一人で抱え込むものではありません。すぐに解決が難しくても一緒に考えていきましょう。
今回は、【処方された薬を飲んでくれない】というお悩みについて考えてみましょう。
薬を飲んでくれないと介護者は困ってしまう

症状がよくなるようにってせっかく先生が処方してくれたのに、、

薬を飲まないことで具合が悪くならないのか心配だわ。
こういったお悩みを抱えたご家族は意外と多いんです。そんなご家族へ向けて、アドバイスを交えて【薬を飲んでくれないときどうしたらよいか】についてお話していきます。
なぜ飲んでくれないのだろう
まずは、薬を飲まないご本人の気持ちを想像してみることにしましょう。
内服を嫌がるパターンはその理由によっていくつかあるので、タイプ別に解説してみます。ここに書くことが全てにあてはまるわけではないので、ご自身の悩みに一番近いものから対策を試してみて欲しいと思います。
タイプ別解決策
タイプ1:もともと薬に頼らないタイプ
このタイプは薬を毎日飲み続ける、という習慣に慣れていません。
そのため、飲まないつもりではなかったけれど忘れやすく、忘れたときに周りから指摘されると「薬を飲んでも変わらないわよ。」などと、飲まなかったことを正当化したい気持ちがあるかもしれません。
「今日も薬飲み忘れてるじゃない!」という指摘だと失敗を責められている気持ちになり、抵抗してしまうので、「薬置いておくね~」くらいの軽い指摘に留める声かけがいいかもしれません。
さらに、習慣化を助けるために服薬カレンダーなど環境面で工夫してみましょう。
また、服薬回数を1日1回にまとめてもらうなど主治医にも協力をお願いするのも効果的です。
- 飲んでいないことを指摘するのではなく、内服に協力的な態度を示すに留める。
- 習慣化を助ける工夫(服薬カレンダー、アラーム設定など)
- 服薬回数を可能な限り少なくまとめてもらう。
タイプ2:不調なのは薬のせいタイプ
実際に薬の副作用でふらつきや気持ち悪さ(嘔気)などが出ることがあるので、こういう訴えがあった場合は処方された医療機関に相談して休薬すべきか指示を仰いでください。
薬の副作用とは違って、認知症で生じる認知機能低下などの症状を「薬のせいだ」と思い込んでしまう方もいらっしゃいます。
そのときには、もう一度なんのための薬なのか、こういう症状を和らげるための薬であることを説明しましょう。ご本人の辛い症状を和らげるお助けアイテムであると納得してもらいましょう。説明を繰り返しても思い込みが解けない場合は、家族ではなく医療従事者やご本人が信頼している人からも説明してもらいましょう。
人を変えることで、すんなり納得していただけることもあります。そして、本人が言う”不調”とはどんなものなのかを親身に聞いてあげることで信頼関係がさらに深まるので、一方的に「飲ませる」のではなく、傾聴する時間を多くとるといいと思います。
また、ご本人が言語化していない不調がまだ隠れている場合があります。その薬を飲むとどのように不調になるのか今一度よく聞いてみてください。
睡眠薬を処方されたのに「この薬を飲むと眠くなるから嫌だ。」と仰る方もいます。この場合、ご本人の”眠くなりたいわけじゃないのに”という意思が感じられます。眠くなるのはいつなのか、薬を飲むとどんな風に感じるのかを詳しく聞くと、「夜はいいけど、朝まで眠い。」ということが分かり、朝に残りにくい睡眠薬に変更する必要があると分かるのです。
- まず薬の副作用の可能性を医師に判断してもらう。
- 手を変え、品を変え、説明を繰り返す。
- どう不調なのかを詳しく聞く。
タイプ3:人に指図されたくないタイプ
仕事で指導する立場におられた方などは、医者だろうが誰だろうが他人に指図されること自体が好きではない方がいます。こういったタイプの方は責任感が強いことが多いです。
「自分のことは自分で決める。決めたことは最後までやり通す。」こういった具合です。
こんなタイプの方には、こんなアプローチはいかがでしょうか。
「〇〇さんのことを頼りにしてしているから、ずっと元気でいて欲しい。」
「先生が、〇〇さんがちゃんと薬を飲んでくれて助かってるって。」
相手からの信頼を裏切りたくないという思いも相まって効果があるかもしれません。
これでもダメな場合は、内服できていない旨をきちんと処方医へ伝えてください。医師から再度お話をしっかりとしたり、剤形を変えたりとできる工夫は他にもありますから。
そしてその過程で、ご本人との信頼関係を深めていくことで納得して飲んでいただけることもあります。
- 伝え方を工夫する。
- 信頼関係構築に時間をかける。
タイプ4:認知症であると認めたくないタイプ
ご本人の認知症に対しての受容が十分でない時期は、抗認知症薬など”認知症のための薬”という認識では飲みたがらないことがあります。
【認知症】というワードに過敏にネガティブな反応を示す場合は、言い換えることをおすすめします。
なぜなら、ご本人が一番今までになかった自分の変化に戸惑っているからです。その戸惑いの原因となっている症状を具体的に言語化してあげることで、「自分の辛さや戸惑いを理解してくれている」と安心して下さり、”その症状を和らげるための薬”という認識に変えられる可能性があるからです。
「あなたがあなたらしくいられるように、今あなたを困らせている症状を軽くしよう。」
「頭が混乱しやすくなっているから、整理するのを助けるためにお薬の力を借りてみない?」
といったスタンスでお伝えすると抵抗感が和らぐかもしれません。
認知症を受容するのはご家族のみならずご本人にとって、難しい課題であることが多いでしょう。
ご本人の抱える不安や戸惑い、(この先どうなってしまうんだろうか。)という気持ちに寄り添い続ける態度を周りは表現する必要があります。
- 【認知症】というワードに過敏に反応する場合は言い換えよう。
- ご本人が困っている症状をターゲットにして話すとよい。
タイプ5:周辺症状としての拒薬のタイプ
【拒薬】は介護抵抗と同じように人からの介入を嫌がり、抵抗から暴言や暴力的行為に発展することもあります。
また【被毒妄想】という症状もあります。「毒が盛られている」といった被害妄想の一種です。
薬だけでなく、食事や水分を摂るのも抵抗したりすることもあり向精神薬など医療介入を要することが多いです。
このタイプは、症状が和らぐまで”内服”にはこだわらず、貼付薬などに切り替えを検討する必要があります。貼付薬で症状が軽快してきたところで内服に切り替えするか否かを検討するといいと思います。
- 周辺症状か否か医師の判断を仰ぐ。
- 向精神薬の介入を検討する。
- 貼付薬など内服以外の剤形への変更を検討する。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
タイプにガッチリと当てはまらなくても「これは試せそう」というヒントになれば幸いです。
認知症は長い期間の治療やケアを要するので、焦らずに信頼関係を作っていくことが基本になると思います。
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